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平成31年2月 観音朝詣りのお知らせ
2019年2月16日文楽の壺坂霊験記を見ました。
西国観音霊場第六番壺阪寺を舞台としたお里と沢市の夫婦愛の物語です。
幼い時の病がもとで失明した沢市に、親戚のお里が嫁ぎました。彼女は働き者で夫思いの優しい女です。
沢市の眼がよくなるようにと毎日壺坂観音にお詣りします。
沢市は毎朝暗いうちに家を出るお里の不義を疑い、ある日そのことを問い詰めますが、自分の眼病平癒の願掛けであることを知って、深く恥じ入ります。
満願の日、二人はそろって壺坂の山を登ります。
沢市の心には新たな思いが生まれました。
自分が死ねば、器量よしと評判されるお里には別の男との幸せな将来があるだろうと。
口実を作ってお里を帰した沢市は、谷に身を投げました。
胸騒ぎを覚えて引き返したお里は、沢市の死を知り同じ所から身を投げます。
しかし、二人は死にませんでした。
観世音の妙智力によって救われ、そのうえ沢市の眼が見えるようになったのです。
観音経には、崖から落ちる事があっても、観音様を念じれば救われるという経文があります。
大阪での初演は明治12年、後に東京でも上演され大評判となりました。
妻の幸せを願い命を捨てる夫、夫への一途な愛情から後を追う妻、当時の人々の持っていた夫婦の心情の理想を描いて、感動を与えました。
この物語のような夫婦愛は現実離れしています。
それでも上演は続いています。
文楽は人形遣い操(あやつ)る人形劇です。
情感のこもった太夫の語りを耳にしながら人形を見ていると、人形遣いの姿は消えて生きている人形が見えてきます。
生身ではない人形だからこそ、観客の心にうまれた感動が純化されて投影されていきます。
芸術は、絵画でも演劇でも文学でも、見る者、読む者の心に想像の広がりを与えてくれるものです。
文学はまことにすばらしい芸術であると思いました。
平成31年2月15日 祥雲寺住職 安藤明之
寒さ極めて厳しいときですので
十八日の朝詣りは午前九時から行います。