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2月 観音朝詣りのご案内
2024年2月17日德あるは讃(ほ)むべし、德なきは憐(あは)れむべし
修證義第4章
道元禅師が、愛情のこもった言葉の大切さを説いた教えの一節です。
この言葉がある文章では、母親が赤児に対して抱くような深い愛情に裏打ちされた言葉が、天をもめぐらす力があるのだと禅師は仰っています。
ここで「あはれむ」という言葉の意味を正しく捉えることが大切になります。
この言葉には、弱い立場や逆境にある人に対して何とか救ってあげたいと思う「かわいそう」と繋がる感情が込められています。
そのことは良いのですが、私たちは弱い立場や逆境にある人に対して、自分より劣ったという差別の感情をかかえがちです。
その思いから発せられる憐れみの言葉は決して人を救う言葉とはなりません。
今年の大河ドラマの主人公紫式部が作者の源氏物語は、平安文化の結晶であり日本を代表し世界に誇る文学です。
その源氏物語の主題について、江戸時代の国学者本居宣長は「もののあはれ」であると言いました。
「あはれ」あわれ、哀れ、憐れ、という言葉はたいへん奥の深いものです。
本来、強い感動を示すときの言葉で、喜びにも、賛嘆にも使い、そしてかなしみの感情を伴います。
「あはれむ」は「あはれ」の動詞のかたちで、愛情、愛惜の思いを含む言葉です。
源氏物語は、時代を経て教理的な無常観や儒教の勧善懲悪の観点から読まれるようになりました。
それを本居宣長は王朝文学本来の読み方に戻したのです。
「もののあはれ」には、苦悩に満ちた王朝女性が折に触れて感じた、しみじみとした情趣や無常観的な哀愁が込められているといわれます。
道元禅師は、王朝文化の素養豊かな家に生まれ育たれた方です。
「德なきは憐れむべし」という言葉には、生きとし生けるものへの深い愛惜の思いがこもっていると思います。
令和6年2月15日
宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺東堂 安藤明之
十八日の朝詣りは午前9時から行います。