2021年9月18日

写経会。1時間半ほどで般若心経を書写します。
希望を持つことは素晴らしいことです。
人生には辛いこと、苦しいことばかりの時もあります。そんな時、希望は私たちを支えてくれます。
心を奮い立たせ、現実の苦しい一日を頑張らせてくれます。
30半ばにして悪性腫瘍のため亡くなられた女性がいます。
料理が好きで、調理師を目指して高校の調理課に進学しました。
熱意を持って勉強したのでしょう、在学中に県の料理コンテストに入賞しました。
卒業して東京の一流ホテルの調理部門に就職しました。
子供の時の夢は実現しようとしていました 。
5、6年過ぎて体調が悪くなりました。
悪性腫瘍に冒されていたのです。
苦しい治療の日々を過ごさなければならなくなりました。
長い入院、抗癌剤の投与。
快方に向かったと思われる時には調理関係の仕事をしながら治療に努めました。
しかし病魔は次第に体を蝕み10年余りの闘病を終えることになりました。
余命幾ばくも無いことが明らかで、緩和ケア病棟に入ることになったときも、治って調理師の仕事に就くことを希望として抱いて、抗癌剤の治療を望んでいたということです。
家族も、回復の見込みがないことを知らせることなく、彼女の夢を共に語りあいました。
彼女にとって生きることは希望を持ち続けることでした。
懸命に生きようとする人に、死病を現実として諦めを説くことなど何の意味も持ちません。
彼女の一生は、世間的な意味での幸せな人生ではありませんでした。
しかしどうすることもできない現実の中で、おのれの命を生ききった確かさがあります。
悲しいけれどズシリと重みのある人生です。
家族の愛情をいっぱいに受けて育った彼女には天性の明るさがありました。
人生で出会う人出会う人に爽やかな印象を残したのでしょう。
お葬式にはたくさんの友達が悲しみを共にしていました。
令和3年9月15日
宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺住職 安藤明之