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令和2年7月 観音朝詣りのお知らせ
2020年7月26日「風と共に去りぬ」は何度も見た映画です。アメリカ南北戦争の時代を力強く生き抜いた南部の農場主の娘スカーレット・オハラがヒロインです。豪華なドレスに身を包んだ華やかな社交場。奴隷たちを従えた当時の白人農場主たちは王侯貴族的な生活をしていました。その南部社会が、敗戦へと向かう時代の暴風にさらされて壊れてゆく。激動を生き抜いたスカーレットが、無残に荒れ果てた自分の農場に立って、「明日は明日の風が吹く」と叫ぶラストシーンには、南部人の不屈の魂を感じます。スカーレットは、品行方正ではありません。恋のために友を裏切り、金のために人を欺く。悪女といってもいい。しかしそれでも彼女に魅力を感じるのは、逆境にあっても誇りを失わず敢然と立ち向かってゆく土性骨の座った凜々しさがあるからです。美徳、悪徳あわせ持った生身の人間として描かれているから魅力が呼び起こされるのです。人間の魅力とは多様なものです。しかし今、この映画がアメリカで厳しい批判にさらされ、上映が自粛されました。ミネソタ州で黒人が警官に殺害された事件を契機に起こった全米を揺るがす抗議運動に伴ってのことです。原作の小説よりは薄められていますが、映画の随所に現れる奴隷差別は、黒人はもとより、人権を大事にする人々にとって許されないものだというのです。自分を差別される側に置いてみれば確かにそうです。160年前のことであっても、今のアメリカでの差別につながっているとおもえば、怒る人がいるのはもっともです。しかし、そうしたことを踏まえても、この映画は面白い。時代に束縛されている人間が、血みどろになっても時代の風に立ち向かっていくなかに新しい時代が生まれます。今、社会を覆う差別に向かって立ち上がる人たちの先にも、新しい時代が生まれるでしょう。スカーレットも、彼女を批判する人も同じ地平に立っています。それを支えるのは、勇気と希望。令和2年7月15日宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺住職 安藤明之