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11月 朝詣りのお知らせ
2025年11月22日現在放映中のNHKの朝ドラ「ばけばけ」は小泉八雲の妻節子をモデルにしたものです。
小学校の国語の時間に紙芝居で見た「耳なし芳一」をはじめ、八雲の作品はなじみ深いものでしたので、興味を持って視聴しています。
ところが、主人公の境遇と、彼女を取り巻く人たちの生き様が、フィクションとはいえ、余りに脚色されすぎていると感じて、見るのをやめようかと思いました。
主人公のトキは、松江藩の中級藩士の娘ですが、実は上級藩士の子として生まれ、生後間もなく縁戚の両親にもらわれました。時は慶応四年、明治維新で間もなく武士の特権はなくなりました。
中学、高校の教科書には身分を失った武士達の零落が記されています。
廃藩置県後に支給された一時金を元に事業を始めた人が多かったが、商売を知らないいわゆる武家の商法で、だまされたりして没落していったと。
ドラマでも、そのことが描かれているのですが、武士達が余りにみっともなく大げさな脚色だと思ったのです。みっともなさとは別ものですが、極めつけはトキの実母が物乞いをしているシーンでした。
ところが、調べてみると、この話は事実に基づいたものらしいのです。
世の中が変わるというのは、そこに生きる人にとってどんなに凄まじいものであったかを想像します。
教科書で習っても、資料を読んでも、頭の中での理解に留まって、ドラマの映像のようには心にグサリと刺さりません。
目で見、音で聞く。
知識というのは五感を働かせ想像力を駆使して創り上げるものだということに、テレビ番組を通して気づかされました。
人生、勉強になることはどこにでもあります。
令和7年11月15日
宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺東堂 安藤明之
寒くなり、日も短くなりました。
十八日の朝詣りは午前6時半から行います。
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10月 朝詣りのお知らせ
2025年10月25日大阪万博に行きました。
興味深く見学したのは、10年後の私たちの生活をテーマにした館と、来館者の健康状態を測定し25年後の本人の姿を見せるという企画の館でした。
25年後というと私はとても生きていそうにはありませんが、ともかく見学者が自分のこととして実感できる未来を見せてくれるところが面白かったのです。
思った通り、展示されている未来の社会ではAIが縦横に駆使されていました。
人間が願う豊かさや便利さをAIが実現してくれます。
家はAIで管理されていて、家族の好みを充たし栄養のバランスがよい食事を誰もが作れるようにしてくれます。
また人工的に作られた上質の肉など、豊富な食材が使えます。
掃除、洗濯など面倒な仕事はAIがAI内蔵の機械にやらせます。
誕生日など家族の特別な日は、AIが覚えていて準備を整えます。
買い物は配信映像で注文し、ドローンが直接家まで届けてくれますから買い物難民の心配が解決します。
自動運転が普及しますから、交通のトラブルも少なくなります。
高度の修練によって技術が伝えられてきた伝統工芸は、AIが技術を分析し、精度の高い機械を開発して生産されます。
後継者がいなくて消滅する心配から解放されます。
美術館では、展示品のガイドが音声だけでなく映像で詳しく提供されます。
例えば、風景画が描かれた場所の時代背景や当時の人々の服装まで映像で見せてくれます。
以上に記したことは、既に実現されているものもあり、私にも予想のつく範囲と言ってもいいのですが、形を持って見せられると、新たな感想が生まれてきます。
それは、便利になり、現在差し迫った多くの問題が解決されるけれど、それでもって人は決して幸せにはなれないということです。
自分自身の創意工夫によって日々が過ごせてこそ生きている甲斐があるというものです。
未来とはなんと退屈なものであるかと思いました。
令和7年10月15日
宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺東堂 安藤明之
十八日の朝詣りは午前6時から行います。
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9月 朝詣りのお知らせ
2025年9月17日連日日本各地の40度超えが報じられた夏でした。
猛暑はまだ続いています。
日本の最高気温は、長らく山形市で昭和8年に記録されたものでした。
小学生向けの年鑑で40.8℃だったという数字を見て、想像もつかない高気温だなあと思いました。
あのころは、夏の暑い日は30度を超える、うんと暑い日は32、3度になるという感じでした。
夏休みは、友達とセミ採りや市営プール通い、時には田川で川泳ぎをして遊びました。
振り返って懐かしいけれど別世界のことのように思えます。
猛暑の原因については多くの人がご存じと思います。
18世紀の産業革命以来の人間の生産活動の活発化によって引き起こされた環境破壊とエネルギーの多消費によるというものです。
温室効果ガスが地球を覆って温暖化が急速に進んだことも挙げられています。
これらは全世界での自然現象の観測、観察と、科学理論に裏打ちされたものであり、世界各国が共同して温暖化阻止の対策に取り組んでいます。
ところが近年、この理論は間違っている説を目にすることが出てきました。
いろいろありますが、例えば温暖化は太陽の活動に関連したもので、温室効果ガスの影響などはごく小さいものだというものもあります。
実際、昨年の世界平均気温は15.1℃ですが縄文時代前期は2℃ほど高く、恐竜のいた9,000万年前は29℃以上の平均気温が数百万年続いたそうです。これも事実なのでしょう。
問題は、いま起こっていて、近い将来には混乱と困難を引き起こすであろう人類共通の課題に対処せず、それを放置してしまうことです。
トランプ大統領が一期目に就任してすぐに温暖化対策を批判しました。
しかし彼は、自分のやりたいことに邪魔となるから非難しているだけのように思えます。
天文単位のことは事実としても、私たちがいまを生きることに関しては重要ではありません。
目先の利益を追い求める人の言説に惑わされず、いますべきことをなすべきです。
目の前の現実に対し、懸命に考え、対処する道を見つけていこうとすることが、諸行無常を生きるということです。
令和7年9月15日
宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺東堂 安藤明之
十八日の朝詣りは午前6時から行います。
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8月 朝詣りのお知らせ
2025年8月24日おせがきは、ご先祖への供養法会として営まれます。
曹洞宗を含めて多くの宗派の寺院の大事な行事となっています。
漢字で施餓鬼と書き、餓鬼に施すという意味です。
ご先祖への供養がどうして餓鬼に施す供養なのでしょうか。
餓鬼とは、餓鬼道にある死者を指しますが、広い意味では供養を受けることなく満たされない境遇にある無数の死せるものを表わします。
この餓鬼のために仏様の大慈悲を仰いで供養するのが施餓鬼法要です。
導師は、満たすことの象徴である食物を、仏の威神力を借りて無限倍にする作法を勤めますので、施食法要とも言います。
そもそも先祖供養は、報恩感謝の思いからなされるものです。
そしてその感謝の思いは、この世に人と生まれ生きていること、いのちあるをありがたいと思う心から生まれます。
いのちは父母によって受けます。
父母はその父母から、さらには遠く連なる先祖からいのちを受けてきました。
いのちの繋がりのかけがえのなさ、有ること難さを思ってなされるのが先祖供養です。
但し、そのいのちの繋がりは血の繋がりによってだけで成り立つものではありません。
人が生きられるのはこの世にある全てのものからのめぐみを受けているからこそです。
いのちと一番緊密にかかわる食べ物について考えてみればわかりやすい。
天地のめぐみを受けた作物が、無数の人々の関わりを経て食卓に載せられます。
肉、魚ならばそのいのちを取って食べ物となっているのです。
これをあたりまえのこととせずに、人間は天の恵み、地の恵み、人の恵みによって生かされているのだと思い至ることが大切なのです。
そして、恵みをもたらしてくれたなかには、顧みられることなく満たされない境遇にあるものが無数にあり、これを餓鬼という言葉で表わして、父母、ご先祖と分け隔てせずに供養するのが施餓鬼法要なのです。
令和7年8月15日
宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺東堂 安藤明之
十八日の朝詣りは午前6時から行います。
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7月 朝詣りのお知らせ
2025年7月16日輪廻説は、生き物が死をもって終わりを迎えるのではなく、新たな生き物となってつぎの生を迎え、それを無限に繰り返していくという思想です。
輪廻転生とも言います。
この説の当否を断言することは私にはできませんが、一つだけ確実に言えることがあります。
それはこの説が、この世に生を受けたもの全てが、大きな命の流れの中に共にあるという観念を根底にしているということです。
そこからは、生けるものは本質的に平等であるという観念が生まれ、生きては死にゆくあらゆる命への深い愛惜の思いが生まれます。
「生きとし生けるもの」という言葉にはそんな思いがこもっていると、私は感じています。
おのれに引き比べて、他のものの痛みを知るべし、悲しみを知るべし、という仏様の教えには、万物共生の思想があると思います。
全てのものが自らの滅びの悲しみをかかえながら共に生きるものであるという思いの中から、あわれみの心を持っていつくしむべしという慈悲の教えが成り立ち、またそれに反して傷つけ合ってはならないという仏教の倫理の根本になる戒めも生まれるのです。
私は僧侶として、仏教徒として、仏様の教えを戴いて生きています。
しかし、経典に記されている言葉の中には相互に矛盾することもあり、また信じがたいものもあります。
私にとっては輪廻説もその一つです。
しかしそこには凡夫には計り知れない深い意味が隠されているのだと思って考察を重ねたいと思っています。
令和7年7月15日
宇都宮市東戸祭1-1 祥雲寺東堂 安藤明之
十八日の朝詣りは午前6時から行います。






